《MUMEI》
新那の試練
帰郷した翌朝。
ニーナは早速シノノにたたき起こされ、城主謁見の間へ連れていかれた。つまり、父であるミカミの前である。頼蔵には甘味処で別れたまま会っていない。


白い目で父を見る。
「なんだ」
「いえ…」

お気に入りの椅子にどっかりと体を沈めたミカミの横に、少女が立っていた。どう見ても10代前半。くりっとした大きな瞳に、髪をふたつに結ったリボンがよく似合っている。
多少の覚悟はできていたが、これには驚いた。

「…父上」
こういう趣味に。

「お前によき統率者となってもらうため、専属の講師を捜していた」
「遠慮します」
「そう言うな。それでな、適任の人財を見つけたのだ。無理を言って我が城まで来てもらった。雇い主が手放そうとせず、それは苦労したわ」
「父上ったら何通も恋文を書いたのよ」

聞きたくない。
ちらっと少女をうかがうと、目が合った。はにかんだ笑顔が可愛い。しかし、可愛かろうが可愛くなかろうが、この状況では関係ない。
どんな風に事態が転がっても、少女に教えを請う己の姿は想像できない。優秀な後継ぎどころか、これでは親子揃って変態と後ろ指を指されることになるだろう。

「父上…」

以前からこの父と姉のやることに振り回されてきたが、こればかりは受け入れられない。

「何も心配することはないぞ。年は若くとも、指導者として最高の技術を持っておる。これからお前の面倒をしっかり見てくれるだろう」


最高の技術って何だ。
血の下がる思いがした。

「父上、私は…」

何なんだこの試練は。
しかし流されるわけにはいかない。
自分の為にも、家の為にも、なぜか齢50を過ぎてロリコンに走り始めた父の為にも。

ニーナの握りしめた手が震えた。ミカミとシノノ、そして少女の視線を感じる。

「私は…」
「何だ?」


「お断りします!!」

ニーナは目にも留まらぬ速さで踵を返し、部屋を飛び出した。
少し泣きたかった。

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