《MUMEI》
キングの弱点
リンクには、志貴・俺・柊の順に入った。


「祐也、こっち」


志貴は俺の方を向いて、後ろ向きで滑りながら手招きした。


「あぁ」


手すりにつかまったままだった俺は、志貴のいる方へ


普通に、滑った。


「ゆ、祐也の裏切り者〜!」


(…ん?)


志貴が差し出した手につかまり、俺は足を止め、振り返った。


そこには


リンクに入ってすぐの手すりにつかまったまま動かない柊がいた。


「何やってんだ?」


首を傾げながら質問すると


「柊はね、スケートだけはダメなの」


俺の隣にいた志貴が答えた。


「嘘だろ」


(運動神経いいのに)


「スキーは大丈夫なんだけどね。昔からそうなの。

小学校の時なんか、親に土下座してスケート教室休んだくらいだし」

「中学は?」


中学時代、柊は完璧なキングだった。


「中学からはスキー教室だから。

柊、スキーは私よりうまいのよ」


(何でスケートだけダメなんだ…)


俺は、動かない


動けない柊を見つめた。


その後


柊を真ん中に、俺と志貴が両側に、支えるように滑った。


途中、何回も転びそうになる柊を何とか助けながら。

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