《MUMEI》

先生は食事にも五月蝿い。

先生の一日は決まっており、毎朝起きて散歩に出掛け、眠気を覚まし、ぼくは先生が散歩から帰ってくる迄に朝食を作る。
白米におしんこと、味噌汁。
青菜のお浸し。
今日は四日目なので梅干しの日だ。
明日は納豆。

七つのおかずを毎月先生は繰り返し召し上がる。


但、朝だけだ。



「散歩していたら飛蝗が袂に入っていたんだけどお昼に出して呉れないか。」

先生には悪いけれど飛蝗は放させて戴いた。
蝗が食べれるからと云う発想だろうがぼくには難しい品目だった。


先生が昼間執筆活動をしている間にぼくは家の掃除やご飯仕度をする。
今日は晴れていたので蒲団を干してから買い物へ行くことにした。


良い南瓜が手に入ったので煮付けにしようと考えていたら晴れた空から雨が降ってきた。
狐雨だ。

洗濯物を思い出し、先生が取り込んで呉れていることを願いながら急いで家に向かう。


「風邪をひいたらどうするんだね君!」

傘を差した先生がぼくに向かって走って来た。


「其れは先生ですよ、裸足じゃないですか!」

うたた寝していた先生は雨に気付き急いで飛び出したらしく前が大分開け、おまけに裸足だった。


「君、御覧よ、酷い雨じゃないか。傘も持たずに帰って来たら風邪をひいてしまう。」


「だから、傘を持ってきてくだすったんですね。有り難うございます。」

先生の奥様は病を患ったうえ、風邪をこじらせ亡くなられたのだと思い出した。


「どうだ、私が来て良かっただろう。」


「はい。」

先生が差してくれた傘の中に入れば蒲団なんてものはどうってこと無くなった。

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