《MUMEI》
目覚め
.


覚えているのは。

しめっぽい、夏の空気。
怒ったようにうなる、車のエンジン。
人間の悲鳴のような、ブレーキのおと。
暗やみの中、幻想的にくだけちったヘッドライト。


それから。




−−しおり!!




《だれか》を、呼ぶ、こえ。






◆◆◆◆◆◆




わたしは、目を覚ました。

まぶたはとても重くて、完全に目が開くまで、少し時間がかかった。

目の前は、白かった。
ぼんやりとしていて、よく見えない。

何回か瞬きをすると、だんだん視界がはっきりしてきた。


白く見えたのは、天井だった。


わたしは起きあがろうと、からだを動かす。でも、なぜか力が入らず、なかなか上手くいかない。からだ中が、しびれたように、固まっていた。

やっとのことで、上半身を起こし、それから周りを見回した。


白い、部屋だった。


ベッドと小さなキャビネット。布団やシーツ、カーテンまでが白で統一されている。


冷たく、無機質な、その部屋。


わたしは瞬いた。


ここは、一体、どこなんだろう。

わたしはどうして、ここにいるんだろう。

なぜ、このベッドで眠っていたんだろう。

いままで、わたしはどこにいたんだろう。


わたしは…。





−−わたしは、一体、だれなんだろう。



.

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