《MUMEI》 わたしと静さんが黙ったまま、見つめあっていると、部屋のドアがノックされた。自然にわたしたちの視線が白いドアへむけられる。 わたしの代わりに静さんが、「どうぞ」とおだやかな声で返事をした。 ゆっくり開いたドアのむこうがわには、すらりと背の高い男のひとが、白い大きな花束をかかえて、立っていた。 彼もやっぱり、驚いたような、ふくざつそうな顔をしてわたしの姿をじっと見つめていた。 わたしは、その青年を見つめかえした。 そして。 ふいに、おもい出した《名前》を、わたしは口にした。 −−シュウ…? わたしのかすれた声を聞いて、彼は驚いたみたいだった。静さんも、びっくりしたようにわたしの顔を見て、それから青年へ視線をむけた。青年は静さんと顔を見合わせてかすかにうなずき、それからわたしの顔を見て、目を細めてほほ笑んだ。 「おはよう」 それが、わたしと《シュウ》の、5年ぶりの再会だった。 ◆◆◆◆◆◆ 事故の後遺症で、わたしはふたつの障害を負うことになった。 ひとつは、からだの麻痺。 頭を打ったせいで、わたしは、昔のようにからだを動かせなくなった。お医者さんはリハビリを続ければ、あるていど回復するが、両足はきっと動かないだろうと話してくれた。 それでも静さんや、わたしのお父さんとお母さんというひとたち、それから《シュウ》は、暗い顔をしなかった。わたしがこの長い眠りから目を覚ましただけでも、奇跡なんだそうだ。 前へ |次へ |
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