《MUMEI》 卯月「やあ、先生。花見はどうかね。」 峯さんが突然思い立ったように持ち掛けた。 「断る。此の町から出ないぞ私は!」 撥ねつけるように先生は峯さんに怒鳴った。 「なんだい、桜前線を気にしていたじゃないか。」 先生は遠慮なさっているのだ。 「いってらっしゃいよ先生。ぼく、塩むすび握りますから。」 ぼくは行かない。 先生も知っている。 「君、しかしだな……」 「ぼくの分も愉しんで来て下さい。」 そう、謂うとお優しい先生は言い返せなくなる。 ぼくは乗り物に乗れないので遠出が出来ない。 此の辺りには桜の樹は無いので、花見には路面電車が必要になるのだ。 前へ |次へ |
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