《MUMEI》
卑猥
竹内が悪魔の笑みで迫る。
「嫌か?」
「ヤです」
気の強い沙知も、バスタオル一枚では弱気だ。くすぐり拷問で不覚にも「やめて」と哀願してしまったのも弱腰になっている原因の一つだ。
竹内が一歩迫ると、沙知は下がった。怯えた表情がまたかわいい。竹内は心底惚れてしまった。
「食事にしよう」
「え?」
「おまえが嫌ならやらないよ」
沙知は唇を結んで俯いた。
「無理やり犯すなら、さっきやってた。でも、そんなことしたら、おまえに嫌われてしまう」
「あたしを本当に好いてくれてるなら、一旦解放してください。そのあとで会っても構わないから」
「あはははははは!」
竹内が瞬きもせずにいきなり笑ったので、沙知はギョッとした。
「沙知。おまえたちを解放したら最後、俺は監禁罪で逮捕され、牢獄の中だ。どうやって会うんだ?」
「運んでいるものが覚醒剤なら無理だけど、そういう趣味のものならば、交渉の余地はあると思います」
「警察官2名の体と引き換えに、罪を許すか。あり得ん。夏実は解放する。安心しろ。おまえは海外まで連れて行く」
沙知は黙った。海外まで連れて行かれたら万事休すだ。無事では済まない。
「竹内さん」
名前を呼ばれて、竹内は歓喜の表情。
「何だ沙知?」
「夏実に合わせてください」
夏実は別室で男たちに見張られながらも、ステーキをパクパクうまそうに食べていた。
ドアが開いたので顔を上げると、沙知がいる。
「うぐぐぐ…」
慌てて食べるのをやめようとして、喉が詰まりそうになった。
「夏実、おとなしくしてて。あたしを信じて、ヘタなマネはしないで」
「わかりました」
沙知は拷問部屋に戻ると、テーブルに着いた。2人分のステーキが用意された。
竹内と向かい合ってすわる。
「竹内さん。服を着させてください」
「ダメだ」
沙知は諦めて食事をした。バスタオル一枚はやはり不安だ。
「沙知。あの悶絶マシーンに対して、何か言いたそうな顔をしていたな?」
鋭い。侮れない。
「別に」
「意見を聞かせろ」
「じゃあ、怒らないでね」
「ハハハ。大丈夫だ。怒らないよ」竹内が嬉しそうだ。
「悪用されたらどうします?」
「まだそういう報告は受けていない」
「悪用されたんです。あなたが開発したマシーン」
竹内の顔が曇った。
「詳しく聞かせてみろ」
「産婦人科の院長が、全く同じ機械を持ってた。そして、膣内洗浄機と偽って、若い主婦の下半身にはめたの」
「それで?」竹内の額に汗が滲む。
「かわいそうに。必死に止めてくださいとお願いしたのに、イカされちゃったみたい」
「邪道だ!」
竹内は本気で怒っている。沙知はなおも言った。
「院長と共犯の看護師を逮捕した。まあ、セクハラドクターのわいせつ行為は珍しくないけど、今回は犯罪の立証に苦労したわ」
竹内は後悔の念にかられているのか、両手で頭を抱えた。
「邪道だ」
「そんな機械があるからよ」
沙知の一言に、竹内が顔を上げた。
「包丁が凶器に使われたら、包丁をつくった職人が罪に問われるのか?」
「包丁とそんな卑猥なものを一緒にしないで」
竹内の目が氷のように冷たく光る。
「沙知。卑猥と言ったな?」
「あっ、卑猥っていうか…」沙知は焦る。
「最初38万円じゃ高いと言った女性も、みんな喜んでいる。卑猥と侮辱するならば、体感してもらおう」
「ちょっと待って」沙知は慌てた。
「このマシーンに攻められて、それでもおまえが平気でいたら、俺の負けを認めよう」
まずい展開だ。沙知は立ち上がると、頭を下げた。
「卑猥という言葉は取り消します。ごめんなさい」
「沙知」
竹内はまた抱きしめた。
「いいぞ。許してやる。俺って優しいだろ?」
「怖い」
「怖いか?」
「怖いわ」
竹内はさらに強く抱きしめた。
「今みたいに謝られたら、全部許してしまうよ」
沙知は、自分と夏実の身を守るために、必死だった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫