《MUMEI》 炎の綱渡り時計がないから、今が何時かわからない。夜にはなっているだろう。 沙知は有島課長の顔が浮かんだ。さぞかし心配しているに違いない。 ドアが開いた。サングラスの運転手だ。 「何だ田中?」 「竹内さん出前頼みましたか?」 「頼んでないぞ」 「毎度ありー!」 「こらあ、勝手に入るな!」 赤山法子がラーメン屋の出前スタイルで登場。沙知はびっくりした。 「チャーシュー麺ですね?」 「待て」 竹内が怖い顔で法子に近づく。 「頼んだ覚えのないものは食えん」 「おかしいですねえ。確かここなんですけど」 「何をキョロキョロしている?」 法子は笑った。 「もしかして、AVの撮影ですか?」 「まあそんなところだ」 「毎度ありー!」 法子は逃げるように走って行った。田中が言う。 「怪しいですよ今の。刑事かもしれない。捕まえて拷問しないんですか?」 「拷問したきゃしろ」 「竹内さん。相手を選んではいけません」 田中が呆れた。 竹内はデスクにすわると、機械を操作した。竜や小林も来る。スキンヘッドの小林は、バスタオル一枚の沙知を睨んだ。 沙知も睨み返す。小林はよほど警察官が嫌いらしい。 「沙知」 竹内は機械を操作しながら聞いた。 「今のは刑事か?」 「え?」 「今のは刑事か?」 胸の鼓動が激しく高鳴る。炎の中で綱渡りをしている気分だ。 「違うと思います」 「おまえの仲間の刑事じゃないのか?」 「違います」 沙知は体が震えた。嘘発見器があったらアウトだ。 「もう一度だけ聞く。今のは刑事か?」 「あ、違います。知らない人です」 竹内は哀しい顔をして沙知を見た。 「嘘をついたらぶちキレるぞ。俺の怖さを考えたうえで答えなさい」 沙知はベッドに腰をかけていた。立っていられないほど膝が震えている。 「今、実は嘘ついてましたと言ってくれたら許してあげる。ラストチャンスだぞ沙知。今のは、おまえの仲間の刑事だろ?」 「違います」 「そうか」 機械から声が聞こえてきた。沙知はラジオかと思った。しかし、法子の声だ。 「課長!」 「何かわかったか?」有島課長が聞く。 「沙知がいました!」 竹内がギロリと睨む。沙知はサーッと下半身から血の気が失せた。 有島がさらに聞く。 「夏実はいたか?」 「夏実の姿は見えませんでした」 「おい、何だそれ?」 「え?」 「まずい、盗聴器だ!」 「盗聴器!」 ここで声が途切れた。竹内は沙知を睨みながら言った。 「裏切ったな沙知」 沙知は汗びっしょりだ。 「裸にして縛れ」 「待ってください竹内さん!」 沙知は逃げようとしたが、竜と小林が襲いかかる。 「離せ!」 小林が沙知の両腕を荒々しく掴む。竜が両足を掴んだ。二人は軽々沙知をベッドに仰向けに寝かせた。 バスタオル一枚で縛られたら裸にされてしまう。 「逆らわないから離して!」 沙知は必死に暴れた。しかし田中も加わる。3人の巨漢に力ずくで来られたらどうしようもない。 手足を縛られてしまった。 小林が憎悪のこもった笑みを浮かべると、バスタオルを掴んだ。 「待って、ああっ」 あっさり取られてしまった。沙知は観念した。恥ずかしいし悔しいが、警察官だ。裸を見られたくらいで騒ぎたくなかった。 だが、裸を晒しただけでは済まなかった。竜が足の裏を狙う。田中はおなか。小林は脇。3人がかりでくすぐりの刑だ。 「やあああ、やめて、あああ…」 沙知はのけ反ってもがいた。 「竹内さん、やははははは、聞いて、あはははははは、きゃあああ、やはは、やめはははははは…やめて…」 沙知は涙を流して暴れた。竹内が止める。 「もういいだろう」 沙知は唇を噛んで泣くのをこらえた。 「タオルを掛けてやれ」 田中が沙知の体にバスタオルを掛けた。 「警察は突入するでしょう」竜が言う。 「そうだな」 竹内は、内線で見張りをしていた荒瀬を呼んだ。荒瀬は夏実を連れて来た。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |