《MUMEI》 . わたしは再び視線をめぐらせて、天井を見つめた。 「夢を、見てた…」 ぽつんと呟くと、柊は、「どんな?」と尋ねかえした。わたしは瞬く。 「よく、わからないんだけど…」 さっき見た夢は、脈絡がなかった。断片的な映像が、ぐるぐると目まぐるしく入れ代わり、それが一体、なにを意味していたのか、さっぱり、わからなかった。 けれど、ひとつだけ、わかっている。 「柊の夢だった、気がする」 夢の最後に見た、あの《だれか》の笑顔は、なんとなくだが、柊のものであるとおもった。 掠れた声でそう答えると、柊は黙りこんだ。わたしは彼の顔を見る。悲しそうな目を、していた。 わたしが、「どうしたの?」と尋ねると、柊は無理したように笑って見せた。 「なんでもないよ」 そう答えて、柊は病室の窓から、そとの景色をながめた。 「いい、天気だな…」 彼はひとり言のような、ぼんやりとした口調で呟いた。わたしも、柊とおなじように、窓辺へと視線をながす。 そとの世界には、果てしない青空が広がっていて、その青色の中を、小鳥たちがゆうゆうと飛びかっていた。 わたしは、「ほんとに…」と、柊の言葉に頷いた。 すると、柊が突然、おもいついたように、「そうだ!」と大きな声を出した。つい、わたしはびっくりしてしまう。それでも柊は気にとめず、わたしの方へ見をのり出して、言った。 「ちょっと、散歩しようか」 さんぽ…? わたしは柊の瞳を見つめかえし、瞬いた。柊は、わたしの返事を待たずに、「待ってて。今、車椅子借りてくるから」と言いきると、一目散にわたしの病室から出ていった。 ◆◆◆◆◆◆ 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |