《MUMEI》

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わたしは再び視線をめぐらせて、天井を見つめた。

「夢を、見てた…」

ぽつんと呟くと、柊は、「どんな?」と尋ねかえした。わたしは瞬く。

「よく、わからないんだけど…」

さっき見た夢は、脈絡がなかった。断片的な映像が、ぐるぐると目まぐるしく入れ代わり、それが一体、なにを意味していたのか、さっぱり、わからなかった。

けれど、ひとつだけ、わかっている。

「柊の夢だった、気がする」

夢の最後に見た、あの《だれか》の笑顔は、なんとなくだが、柊のものであるとおもった。
掠れた声でそう答えると、柊は黙りこんだ。わたしは彼の顔を見る。悲しそうな目を、していた。

わたしが、「どうしたの?」と尋ねると、柊は無理したように笑って見せた。

「なんでもないよ」

そう答えて、柊は病室の窓から、そとの景色をながめた。

「いい、天気だな…」

彼はひとり言のような、ぼんやりとした口調で呟いた。わたしも、柊とおなじように、窓辺へと視線をながす。

そとの世界には、果てしない青空が広がっていて、その青色の中を、小鳥たちがゆうゆうと飛びかっていた。

わたしは、「ほんとに…」と、柊の言葉に頷いた。

すると、柊が突然、おもいついたように、「そうだ!」と大きな声を出した。つい、わたしはびっくりしてしまう。それでも柊は気にとめず、わたしの方へ見をのり出して、言った。


「ちょっと、散歩しようか」


さんぽ…?

わたしは柊の瞳を見つめかえし、瞬いた。柊は、わたしの返事を待たずに、「待ってて。今、車椅子借りてくるから」と言いきると、一目散にわたしの病室から出ていった。




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