《MUMEI》

店内は思ったほど狭くはなかった。
客の姿も見当たらない。
奥のレジカウンターには店員の若い男がやる気なさそうに肘をついて座っていた。
「流行ってなさそうな店だな」
織田が一通り店内を見渡してから口を開いた。
「おまえ、なんでこんな店に来たかったんだ?」
「馬鹿だな、二人とも。こういう人気なさそうな小さな店が穴場なんだって。ほら、見ろよ。そこらにはない掘り出し物がいっぱいあるじゃん」
そう言ったケンイチはすでに服の物色を始めていた。
「掘り出し物ねぇ」
言いながらユウゴは近くの棚に手を伸ばした。
たしかに個性的な柄やデザインの服が多いように思う。
しかし、そのどれもユウゴ好みのものではなかった。
「まあ、いいか。とっとと選んじまおう」
ユウゴは呟くように言いながら服を選び始めた。

数ある服の中からなんとか無難な物を探しだし、試着室で着替える。
そして店員にこのまま着て帰ることを告げたユウゴは手持ちの金が足りないことに気がついた。
その様子に気付いたのか、同じく新しい服を身につけた織田が近づいてきた。
「俺がまとめて払おう」「あ、悪いな」
「いや」
低い声で言う織田の恰好は、さっきまでとは一変して若者風だ。
おそらくケンイチが見立てたのだろう。
多少の違和感はあれど、似合っていないわけではない。
一方のケンイチはといえば、鏡の前で取っ替え引っ替え服を合わせていた。
「おい、さっさと決めろよ」
「いや、わかってんだけどな」
ユウゴの声に答えながらもケンイチは手を止めない。

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