《MUMEI》
愛は会社を救う(96)
一方、声を掛けた高木も、呆気に取られ言葉を失っている。
「…チーフ、どうかなさいましたか?」
ようやく発した彼女の一言に、仁美がはっと我に返る。
目の前にいるのが高木だということを、そこでようやく認識したのだろう。
頬と耳たぶが、羞恥と屈辱のため、みるみる真っ赤に染まっていく。
上げかけた尻を慌ててOAチェアに落とし、高木の方をなるべく見ないようにしながら、その場を取り繕う。
「な、なにかしら…」
そう言って何とか応じたものの、落ち着かない様子でキョロキョロと視点が定まらない状態が続く。
動揺を悟られまいと努めてはいるが、高木が差し出した書類を受け取る指先は、明らかに震えている。
やがて、用を済ませた高木は、不審げに首を傾げながら仁美のデスクを離れて行った。
幸い他の社員たちは忙しく働いていたため、異変に気付いた者はいなかったようだ。
しかし仁美は、痛々しい表情で、短く浅い呼吸を繰り返していた。
まるで見えない影に怯えているかのように…

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