《MUMEI》

わたしたちが見つめあっていると、病室のドアが開いて、お母さんと静さんがやって来た。ふたりとも、花束をひとつずつ、抱えていた。

「あら、来てくれてたの?」

お母さんは柊の顔を見て、はなやかな声で言った。柊は、お母さんに会釈する。
静さんはベッドに近より、抱えていた色とりどりの花束を、わたしに見せてくれた。

「ご近所の方たちが、ウチに持って来てくださったの。栞ちゃんへって。きれいでしょう?」

赤や、黄色や、ピンク色の、かわいい花々…。

「ガーベラ…」

柊が、小さい声で、ぽつんと呟いた。わたしは一度、柊の顔を見る。柊は、かわいらしいガーベラの花束に見とれていた。

「こっちはバラよ」

お母さんはにこにこして、花束をかかげた。その花束は、こぶりなピンク色のバラに、かすみ草がそえられていた。

「かわいい花束だね」

わたしがそう呟くと、お母さんも静さんもうれしそうだった。

わたしたちが、その愛らしい花束に、心をなごませていると、ベッドの横からバラの花束を見つめていた柊が、突然、言った。

「ピンク色のバラは、《病気の回復》っていう花言葉があるんだよ」

やわらかい声だった。だからお見舞いにはピッタリだね、と、ささやく。
静さんが首をかしげて、柊に尋ねた。

「バラの花言葉って、《情熱》って意味じゃなかったっけ?」

柊は静さんを見つめて、頷く。

「色によって、意味が変わってくるんです。赤が《愛情》、黄色が《嫉妬》、白が《純潔》というように。とくにバラは、たくさんの花言葉を持っているんで、一概に、これだ!とは、言えないんですけど」

ひととおり説明すると、お母さんが感心したように「くわしいのねぇ…」と、ぼんやり言った。静さんも頷いている。

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