《MUMEI》
花言葉
そんなふたりに、柊は恥ずかしいのか、曖昧に笑いかえしていた。わたしは、彼の顔を見あげたまま、自然と言葉をつむいだ。


「柊は昔から、お花がすきだったよね。よく、お花の名前とか教えてもらった」


わたしの台詞に。

お母さんと、静さん、そして柊は、とても驚いたようだった。みんな一斉に、わたしの顔を見つめる。

目覚めてから今までの間、わたしから、昔の話を、口にすることがなかったから。


けれど、


きっとわたしの言葉に、だれよりも驚いていたのは、ほかでもなく、わたし自身だった。


静さんは、おそるおそる、聞いてきた。

「なにか、おもい出したの?」

わたしは、静さんを見つめかえし、瞬きをする。お母さんも、心配そうにこちらを見ている。


ふたりの姿を見ながら、わたしの頭の中に、響いてきた声が、あった。

わたしは、そのなつかしい声に、耳をすませる−−−。





◆◆◆◆◆◆





『あれを、見て』


となりにいる柊が、そう言った。

ここは、わたしたちが通っていた中学近くにある児童公園だった。わたしたちは、中学の制服を身にまとって、ならんで立っていた。

柊の顔を見あげると、柊は前方の生け垣へ指をさしていた。わたしは彼が、指さした方へ視線をながした。


その、生け垣には。


低木の、その枝さきに、両性花と呼ばれる、小さな花々の集まりを取りかこむ、うす紫色をした、いくつかの装飾花の蕚片たち。
たくさんのまるい花が、みごとに咲きほこっていた。


『ガクアジサイだよ』


初めて聞いた、花の名前だった。わたしはもう一度、その《ガクアジサイ》をながめる。

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