《MUMEI》 柊の説明によれば、よく見かける、装飾花が、小さな丘のように、こんもりとたくさんあつまっているアジサイは、《セイヨウアジサイ》というのだそうだ。 わたしは、どちらかと言えば、《セイヨウアジサイ》の方が、華やかですきだ、とおもった。 柊はうれしそうにつづける。 『繊細な花だろ?存在感はあるんだけど、なんていうか控えめでさ…』 『控えめっていうか、地味だよ。なんか貧弱だし』 『…わかってないなぁ、栞は』 トゲをふくんだわたしの声に、おおげさなため息をついてから、柊は呟いた。 『見た目あんなでも、結構、根性あるんだよ』 わたしは柊の顔を見あげた。彼は真剣な目をして、うす紫色の花を見つめていた。 そうして、うたうように、言った。 『ガクアジサイの花言葉は、《耐える愛》』 耐える、愛。 わたしも柊とおなじように、ガクアジサイをながめた。 『それは、根性あるかもね』 『だろ?』 わたしと柊は顔を見あわせて、おおごえで笑った。 柊は、花が、すきだった。 いつも、得意そうな顔をして、わたしに色んな花の名前や、たくさんの花言葉をおしえてくれた。 −−すきだった。 花を見つめるときの、やさしい彼の目や、 その花に触れるときの、たおやかな彼のしぐさ… そして、 澄みきった青空をおもわせる、さわやかな柊の笑顔が。 なによりも、だいすきだったんだ−−−。 ◆◆◆◆◆◆ 「すこしだけど、おもい出したよ…柊が、わたしに、《ガクアジサイ》の話をしてくれたこと」 わたしは柊の目をまっすぐ見つめて、答えた。柊は黙ったまま、目を細めた。 お母さんと静さんは、顔を見あわせた。なんの話か、わからないのだろう。 前へ |次へ |
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