《MUMEI》

「ぁぁ──そうだね。いきなり水をかけられたら怒るのが普通だ」

「んじゃあ‥何でオマエは怒んねーんだよ」

「フ‥、簡単な理由だよ。君が僕の為を思ってしてくれたからさ」

「‥ぇ」

途端に

珠季は

フォークを皿に落とした。

「はぁッ!?」

あり得ない──

とでも言いたいんだろう。

だが

言葉が出て来ないらしい。

金魚のように

口をパクパクさせて──

何とか

僕の台詞を撤回させようと必死だ。

「ぁ‥ぁ‥ぁ‥あのなッ、アタっ‥アタシは‥」

そんな彼女の様子に

僕は思わず笑ってしまっていた。

「てッめ‥何笑ってんだよっ!?」

飛んできた拳を

僕は片手で防いだ。

「落ち着かないか、僕はただ──」

「る・ッ・せぇ」

怒り笑いとでもいうんだろうか──

そんな顔をして拳を押してくる彼女のこめかみには

青筋が立っている。

ここは‥

何も言わないでいるのが賢明だな‥。

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