《MUMEI》
魅力
小林が襲いかかる。倒れている有島の喉を手で掴む。有島は小林の手首を握ると、すかさず三角締め!
「貴様…」
小林は怪力にものを言わせて有島を持ち上げる。そのままパワーボムで床に背中から叩き落とす!
「あああ!」
技が外れた。小林は有島の襟首を鷲掴み。強引に立たせると顔面パンチ!
「課長!」
ふらつく有島。なおも小林が顔面パンチを狙うが、交わすと同時に飛んだ。
延髄斬り!
後頭部の辺りに靴がヒット。小林は屈む。有島は間髪入れずに足を絡ませ、手を取って卍固め!
決まった。岡松がレフェリーに早変わり。
「ギブアップか?」
「NO」
「ギブアップか?」
「NO」
法子が怒鳴った。
「バカ早く逮捕しなさい!」
「そっか」
「そうかじゃない!」夏美も怒る。
有島が卍固めを決めたまま、小林の手首に3人がかりで手錠を掛けた。
有島は構えた。もうだれも来ない。夏美は満面笑顔で言った。
「課長、カッコイイかも」
法子も渋い顔で指を差す。
「課長、見損なったぜ。もとい。見直したぜ」
「こう見えてもブルース・リーを見て育った世代だからな」
「それにしては技がプロレスでしたよ」
「うるさい」
外の様子を聞いていた竹内は、沙知を見つめた。
「沙知。どうやら俺の選択肢は、2つだ」
沙知は緊張の面持ちで竹内を見つめた。
「何が何でもおまえを人質にして、海外へ高飛びする。あるいは、潔く捕まるか」
沙知は黙って竹内の目を真っすぐ見ていた。
「沙知。おまえに本気で惚れてしまったのが、俺の敗因だ」
沙知の表情が僅かに動く。
竹内は、彼女の髪にキスすると、手足をほどいた。
「竹内さん」
「沙知。解放したら、会うというのは、逃げるための口実だろ?」
「違うよ。会いに行くから。証言もします。あなたが助けてくれたって」
「沙知。おまえは魅力的過ぎる。魅力の前では、戦車も止まる」
「竹内さん。殺人やレイプなど、取り返しのつかないことはしていないんだから、立ち直ってください」
沙知の言葉を聞いて、竹内は唇を強く結んだ。
「出会い方を間違えたな。まあ、正しい出会い方がどんなものかは、知らんが」
そう言うと、竹内はベッドを離れ、ドアを開けた。
有島と向かい合う。
「竹内か?」
有島の問いに、竹内は笑みを浮かべた。
「竹内。話は聞いた。情状酌量の余地はかなりある。ここで刃向かって罪を重くするのは愚かだ」
しかし、竹内は自信満々の笑みを浮かべるだけだ。
法子と夏美は心配になり、竹内の横を通り過ぎて部屋に入った。
ベッドの上に裸の沙知がうつ伏せで寝ている。バスタオルはお尻に掛けられているが、ぐったりしている。
法子と夏美は、全裸の竜を見て血の気が引いた。
「先輩!」
「沙知!」
二人はベッドに走った。
「あっ…」
沙知は顔を上げた。しかし目は虚ろだ。法子は沙知を抱きしめた。
「忘れなさい。犬に咬まれただけよ。命さえ奪われなきゃ、何とかなるわよ人生」
沙知はポカンとした。夏美が泣いている。意味がわかった。
「何言ってるの。あたしは大丈夫。変なことはされてないわ」
「嘘」
「危ないところだったけど、竹内さんが助けてくれたの」
「竹内が?」
法子と夏美は力が抜けた。
「良かったあ」
「ありがとう、そんなに心配してくれて」
「私はてっきり沙知が犯されちゃったかと思ったから」
「赤山先輩」夏美が睨む。
「あ、蹂躙されちゃったかと思ったから」
「もっとひどいですよ!」
二人のやりとりに、沙知は笑った。助かったのだ。本当に危機一髪の連続だった。

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