《MUMEI》
セクハラ店長
事件が解決して一段落すると、沙知と法子と夏美は、休みを取って遊びに出掛けた。
飲みに行く前にマッサージをしたいという夏美に付き合い、沙知と法子は付いていった。
「全裸ですけど、大丈夫ですか?」
「何よ全裸くらい。もちろん女性エステティシャンでしょ?」
沙知の質問に、夏美が悪戯っぽい笑みで答える。
「もちろん、イケメン男子数人に囲まれて、裏表たっぷりかわいがられちゃう」
沙知は立ち止まった。
「嘘でしょ?」
「嘘ですよ。店長以外みんな女性ですよ」
「夏美!」沙知が睨む。
「きゃははは。泉さんビビってた」
「でもそういう店があったら流行るだろうな」
「赤山さん!」
法子は睨む沙知を無視して、両腕を伸ばした。
「天使の翼を広げるかな」
「天使?」
「喧嘩売ってる夏美チャン?」
「いえ、天使です」
店に入った。混んでいた。法子と夏美は大丈夫だったが、沙知は個室の中で待たされた。
事務員がカーテンを開ける。
「お客様、30分くらい待ってしまうんですけど」
「30分は無理。あなたはダメなの?」
「すいません、資格がないんです。女性エステティシャンじゃなきゃダメですよね?」
沙知は無表情で聞いた。
「男子なら待たないの?」
「店長がいます」
「店長はいくつくらいの人?」
「50歳です」
沙知は少し考えた。若い男性なら照れるが、50歳くらいなら別にいいと思った。
全裸になるといってもタオルは掛けてくれるはずだ。
「いいですよ、店長で」
「本当ですか。ありがとうございます。では、バスタオル一枚で待ってていただけますか?」
カーテンが閉められた。沙知は言われた通り服と下着を脱ぎ、バスタオルを体に巻いて待った。
外から声が聞こえる。
「店長こちらです?」
「美人さん?」
「美人です、美人です。凄い素敵な人ですよ」
「マジい。違ったら君は全身マッサージの刑だよ」
「セクハラですよ」
どこかで聞き覚えのある声と喋り方。沙知は慌てた。
「入っても大丈夫ですか?」
「…どうぞ」
カーテンを開けた。確かに美人でかわいい女性が、バスタオル一枚でベッドに腰かけている。
「お待たせしまし…わあああ!」
セクハラ社長とまさかこんなところで再会するとは。
沙知は顔色がない。しかし店長も蒼白だ。小声で沙知をなじる。
「刑事さんひどいよ。ここはまじめにやってるんだからさあ。前科もんには人権ってないの?」
「いや、そうじゃなくて」
「刑事の影響力知らないの。うろつかれたら営業できないよ」
「待って店長。あたしの話を聞いて」
沙知は両手を出して店長の速攻を制した。
「偶然よ。きょうあたし休みだもん」
「嘘」
「あなたが経営してるお店って知ってたら入らないわよ」
「何てことを」
店長は穏やかな表情になると、改めて沙知の体を見た。バスタオル一枚。魅惑的だ。
「捜査じゃないの?」
「違います」
店長の顔が怪しい笑顔に変わる。
「そう。じゃあ、たっぷりサービスしてあげる」
「あ、ちょっと、恥ずかしいですね」
「うつ伏せになって」
沙知はとりあえずうつ伏せに寝た。
「沙っちゃん。いい脚してるね」
「その呼び方はやめて」
「タオルお尻まで下げるよん」
「え?」
沙知は焦った。お尻に掛かっているからホッとした。
「コースはどうします?」
「あ、やっぱりいいです」
「そんなこと言わずに、当店自慢のオイルマッサージ受けてください」
沙知は仕方なくそうした。
店長はオイルを両手に塗ると、いきなり脇を攻める。
「きゃははは!」
「あれ?」
沙知はうつ伏せのまま振り向くと、店長に言った。
「ごめんなさい。あたし、くすぐったがり屋で、脇はダメなの」
「どこがダメなの?」
「脇と、腰と、あ、脇腹も」
「ここ?」
「きゃっ…」沙知は振り向いて睨んだ。「ちょっと、怒るよ」
「嘘嘘嘘」
沙知は枕を抱いた。思いきり不安だ。

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