《MUMEI》

 やたらと空気の冷えた朝
布団から中々出られず、加えてファファの子供体温にがあまりに心地がよく
其処から出たのは結局目覚めて三十分経ってからだった
外は相当に寒いのか、部屋の中でも空気が凍り、はく息が白い
「今日あたり雪、降るかもな」
窓の外、見える空は重たい曇り
如何にも、雪を降らせそうな天候
少しでも室内の温もりが逃げるのを防ぐため、開けたカーテンをまた閉めていた
自分用のコーヒーをインスタントで手早く淹れ、ファファにはカフェ・オレを作ってやり
漂うその香りにファファが目を覚ます
「正博君、おはようございます」
「おはよ。寒いだろ。これ着てな」
と、頭から被せられたのは田畑のパーカー
サイズがファファには大きすぎて、手すら袖から覗かない
それでもファファは嬉しそうにその温もりにひたる
ソレにつけ足されるかの様にカフェ・オレの入ったカップが渡され
一口、飲んだ
「温かくて美味しいです〜」
「やっぱ、寒い朝はこれに限る」
ベッドに腰かけた田畑がファファを抱く
腕の中にある彼女の存在に、堪らなく幸福感を感じていた
「正博君、今日はお仕事ですか?」
首を反らし、後ろの田畑の顔を見やりながら問う
頷いて返す田畑。その彼の頬へファファの手が触れて
浮かべて見せた笑みに田畑も返してやる
「いつも、一人で留守番させて悪い」
囁くような田畑の声にファファは首を横へ
気にする事はない、とまた笑みを浮かべた
「ファファ、正博君が居ない時、いつもお布団で寝ちゃうんです。何だかお昼になると眠くなっちゃって。だから大丈夫。目が覚めたら正博君はいつもそばにいてくれて、ファファとっても安心です」
何一つ偽ることのないファファの言葉
ソレが田畑には素直に嬉しく感じ、そんな事に喜びを覚えてしまう自分が何となく可笑しく思えた
「……もう、こんな時間か」
何気なく横眼で時計を見やると、出勤時間が随分と差し迫っている事に気付き
田畑は大儀げにベッドから降りると身支度を始めていた
手早く朝食を作り、ついでにファファの昼食も、可愛らしく皿に盛り付けてやりラップを掛ける
「じゃ、行ってくるな。昼メシ、レンジで温めてから食えよ」
毎日の台詞を言いながら、その手がファファの頭を柔らかく撫でていく
ファファの好きな、彼の仕草
互いの顔がやんわりと緩んで
出掛けていく田畑の背に、いってらっしゃいとファファの穏やかな声が重なった……

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