《MUMEI》

月日は流れ、高校3年生になると、わたしたちはそれぞれの進路について、話をすることがおおくなった。

子供がだいすきだったわたしは、当時、将来は保育士になりたいとおもっていて、保育専門の短大に進学することをかんがえていた。

そして柊は、花がすきだったから、フラワーアレンジメントを勉強して、花屋で働きたいと言っていた。

「でも、いつか一人前になったら、自分の店を持ちたいから、大学で経営学とか勉強したほうがいいのかなぁ…」

わたしは、真剣に悩んでいる柊の顔を見あげて、ふふっと笑う。

「将来の夢がお花屋さんなんて、女の子みたい」

わたしのからかう言葉に柊もテレながら笑い、髪をかきあげながら、そうだな…と言った。

「あいつにも、おなじこと言われたよ。『女々しいヤツだな』、だってさ」

わたしは瞬いて、あいつってだれ?と尋ねた。柊は、眼鏡の奥に見える瞳に、ふわりとやさしさを滲ませて、低い声で呟いた。



「《ジュン》だよ」




◆◆◆◆◆◆




−−−《ジュン》?




聞いたことが、ある名前。



それは、一体、だれだったか…。



ユラユラと、揺らめく意識の中、

柊の、低い、落ち着いた声が、聞こえてきた…。



『《ジュン》は栞のことを、ずっと−−−』



柊の声の、途中で、


目の前の闇が、するどい光に、引き裂かれた…。





◆◆◆◆◆◆






日がたつにつれて、わたしの病室には、花が増えていった。




わたしの友達や親戚のおじさん、おばさんなどが、入れ代わり立ち代わり、わたしのところへ寄ってきて、花束をくれるのだ。

おかげで、真っ白だった病室も、はなやかなお花に彩られて、ずいぶん明るく見えた。


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