《MUMEI》 愛は会社を救う(97)「ご気分がすぐれないのですか」 そっと仁美のデスクに近付き、優しく声を掛ける。 顔を見上げ、一瞬激しく動揺した素振を見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻す。 私の背後に、青地知子の姿を認めたからである。 「チーフ、大丈夫ですか」 心配そうな知子の問い掛けに、仁美が黙って頷く。 まるで、なだめられた幼女のような素直さだ。 「後のことは気になさらず、休憩室で横になってはいかがですか」 私がそういうと、知子が私の目を見て頷きながら同調した。 「それがいいですわ。さあ、行きましょう。私がしばらく付き添いますから」 知子が仁美の背中に左手を添え、席を立つように促す。 それと同時に、反対の手で、私に何かを手渡した。 そして、そっと目配せする。 仁美は身体をぐらつかせながら立ち上がり、知子の介助のもと、覚束無い足取りでフロアを後にした。 私の手の中にあったのは、小さく折った1枚のメモ用紙だった。 前へ |次へ |
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