《MUMEI》

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ある日、お母さんが花の図鑑を持ってきてくれた。


「せっかく、いただいたお花の名前がわからないんじゃ、みなさんに申しわけないでしょう?」

お母さんは、わたしにそれを差しだしながら、イヤミっぽく、そう言った。

「柊に教えてもらうから、いいよ」

わたしは図鑑を返そうとしたが、お母さんは首を振った。

「ダメ。自分で調べなさい。ラクしようとするんじゃないの!」

無理やり押しかえされた。なので、ヒマなとき、その図鑑を読んで花の勉強をするようになった。図鑑には、花の写真や、育て方、そして花言葉までのっていて、読んでみると、意外におもしろかった。





色とりどりのガーベラの花言葉は、《神秘》。

うつくしく咲きほこる、マドンナ・リリーは、《求める純潔》。

繊細で、可憐なカーネーションは、《激しい愛》。

小ぶりで、かわいらしいヒメヒマワリは、《あなたは素晴らしい》。

…。

ふーん、いろいろ意味があるんだな…。





「ずいぶん、熱心ね…」





真剣に図鑑を読んでいたわたしは、いつの間にかベッドのとなりにいた、静さんの声に驚いた。

「お姉ちゃん、いつからいたの?」

わたしは図鑑をとじて、尋ねた。静さん−−お姉ちゃんは、ついさっきよ、とあきれたように答えた。

「読書もいいけど、たまには外の空気を吸わないと。脳みそ腐るわよ」

お姉ちゃんは背中をむけて、クローゼットにわたしの下着の換えを入れながら、ぼやいた。

「柊に、連れていってもらうもん」

わたしが反論すると、お姉ちゃんは、振り返った。わたしと目をあわせて、言った。

「…あまり、あの子を頼っちゃ、だめよ」

その抑揚に、どこか、冷たさをかんじた。

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