《MUMEI》
お坊っちゃん
暫くの間の後、貴士は覚悟した様に深く頷いた。


「わかりました。
でも入ったとして、俺は何をすれば?」


本音を言えば、あんな気味悪い屋敷に入りたくない。
だからそれ相応の理由が欲しい。


老婆は羽織っていた灰色のジャケットから、一枚の紙切れの様なものを取り出した。

「それは?」


貴士は、それを覗き込む様に見る。
が、光が反射してよく見えない。


「写真…ですか?」


訪ねると、老婆は

「そうじゃ。」

と頷き、それを貴士に手渡した。


色褪せたセピア色の写真 。
かなり昔に撮られたであろうそれには、おかっぱ頭の少年が一人、満面の笑みで写っていた。


歳は5、6歳くらいか


セピア色のため、はっきりと色の認識は出来ないが、
白いシャツのボタンを上まできっちり留め、その上からベストを羽織っている。

おまけに蝶ネクタイまでして。

下は子供らしく半ズボンを履いており、膝まであるソックス。
靴は革製の様だ。


『お坊っちゃん』


まさに、その言葉が似合う少年だった。

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