《MUMEI》

置屋は、古い民家を改築した造りだった。



其所の居間で、猪俣は伯母である老芸妓と加奈子だけを残し、半玉(見習い)の芸妓らを人払いした。



猪俣は小声で話し始める…。



『直美を殺した犯人が、警察と道風会に追われて日本全国を逃げ回ってる…。

苗字の二文字目に"松"の字がつく男だ…。


もしかしたら、この辺りにも現れるかもしれない…。

たぶん金回りが良くて目立つ筈だ…。


熱海の置屋なら伊豆や箱根あたりの噂話も集まってくるだろぅ?


頼む…。暫く俺を此処に置いてくれないか…』



猪俣は、加奈子と老芸妓に頭を下げた。

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