《MUMEI》

そこまで言って、亜由乃は苦く笑う。

「何いってるんだろうね。でもね、こわかったの。」 「・・・どこで会ったの、そいつ。」
「・・・朝、学校で。ケルベロスと一緒だったんだけどね、あの子、すごく吠えたんだ。」

亜由乃は、小さな溜息をつく。励ましたくて、たまらない。

「まあ・・・さ、大丈夫でしょ。その人、男?」
「えっ、あ、たぶん。」
「じゃあさ、亜由乃、その人に一目惚れしたんじゃない?」
「ええっ!!?」

亜由乃の顔は、見るまに赤くなった。形のいい唇をとがらして、怒ってみせる。
「ひどーいっ!本気で怖かったのに!」
「あははっ!ごめんって。」
なだめると、おどけたように舌を出す。
その仕草に、さっきまでの不安はなくて、心の底からほっとした。

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