《MUMEI》

まだ暖かい時期なのに小刻みにアラタは体が震えた。
一気に汗ばむ。

空を仰いで大きく瞳を見開く。爪で煉獄の手を引っかいていた。

ほぼ発作に近い。


煉獄は右手の感覚が麻痺している。
忍耐強い彼でも同じところばかり傷付けられると流石に苦しいようで、時折アラタと波打った。
ギィギィとベッドスプリングは寿命を縮める。

煉獄はアラタの額に張り付いた前髪を眼球から避け、そのまま頬をなぞる。




噛んだり引っ掻くという行為はアラタの自己を保つ術であった。
互いに受ける刺激が彼をこの場に留めている。

今日は抵抗しようとしているだけまだ良い方だ。
受け身であるが故に感情や意思を上手く表せられないというのが彼に親しい一部の見解である。



いくらでも痛め付ければいいアラタが生きる意志を棄てていないことだから。


燻る痛みに耐え抜けば、アラタの平静は戻ってくる。

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