《MUMEI》 老芸妓からすれば、甥とはいえ極道者にまで堕ちた男の願いを、訊き入れる理由は無い。 ましてや命のやりとりをするような面倒事を引き連れてくるとなると尚更である。 老芸妓は、猪俣に怒鳴り返すと思いきや――… 『……。』 何故か言葉をつぐんでいた…。 何故口をつぐんだかと問えば、傍らで話を訊く加奈子の顔色が目に入ったからだ。 猪俣が追うその男は、加奈子にとっても"姉の仇"である。 老芸妓の断りたい心情を黙らせたのは、加奈子の怨みに満ちた表情だった。 前へ |次へ |
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