《MUMEI》 田畑を見送って後 普段通りに布団にもぐりこんでいたファファは、普段なら眼を覚ます事のない時間に眼を覚ましていた 寝起きにぼんやりと部屋を見回し そして、徐にベッドから降りるとベランダへと向かう 「お花さん、おはようございます」 何所に置かれている鉢植え ソレに挨拶をしながら深々と頭を下げていた 植物は話しかけて育ててやると奇麗に咲くのだと田畑に聞いたファファは、鉢植えに話しかけるのを毎日の日課としていた 「お洗濯をしましょう」 暫く鉢植えを眺めた後 思い出したかの様に踵を返し、洗濯機が置かれている洗面所へ 漸く覚えた洗濯 懸命に自分より背丈のあるソレに苦労しながら洗い物を放り込んだ 洗濯終了を告げる音が数十分後に鳴り 苦労して入れた中身を、同じく苦労しながら取り出し干して 水の冷たさと、外気の寒さに身を震わせる その寒さに耐え兼ね、ファファはまた布団の中へと潜りこんだ 「温かいです……」 布団の持つ温もりに眠気を誘い出され、段々と重くなっていく瞼 まだ眠るまい、と懸命に眼を開けようと試みるが無駄で すぐさま眠り込んでしまい、目が覚めた時には既に日が暮れていた 「また、沢山寝ちゃったです……」 その事に何となく照れながら すっかり冷えてしまった洗濯物を取り込もうとベランダへ 外はやはり寒く、見上げてみる空も随分と暗かった その薄闇の中、見上げるファファの頬に何かが降ってきた 白く、冷たい何か (今日あたり、降るかもな) 夢現に聞いた田畑の言葉を思い出し、次々と降ってくる白い物にファファは見入るばかりだ 「これが、(雪)……?」 寒さも忘れ、暫くの間ベランダに立ちつくしたまま 段々と白に染まっていく街の様に見入る 降りたての新雪の白 ソレとの初めての出会いに、ファファの眼は興味に輝きだしていた 徐に時計を見やり、時間を確認開いたファファは、買ってもらった手袋と帽子を身に着け外へ 5時30分 丁度、田畑が仕事から帰宅する時間帯 早く帰って来てほしいと必要以上に強く思う。 初めての雪を一緒に見たいから、とも その気持ちに比例するかの様に歩みは早まって そして田畑とシャボン玉を飛ばした公園へと差し掛かった時だった 向かいから歩いてくる田畑の姿を見たのは 「正博君!」 珍しいファファの大声を聞き、田畑は驚いた様な表情を見せる すぐさまファファへと駆け寄った 「ファファ、何やってんだよ。お前、こんな薄着で」 寒いだろ、と田畑の上着がファファの肩へと掛けられて 温もりが重なった 冷気に当てられた身体に染み込むそのほのかな温度にファファが見せる笑み 寒さに頬を赤くしながら 「正博君!これ、この白いのが雪ですか!?」 勢い良く問うてきて その瞬間に田畑は理解した 普段は一人で外になど出ないファファが何故一人で外に出たのか 初めて見て触れる冷たい雪にきっとはしゃいでしまったのだろうと肩を揺らすと 田畑はファファの身体を方の上へと抱え上げていた 「そ。これが雪。真っ白でキレイだろ」 「はい!とっても、とってもキレイです!!」 「でも、やっぱ寒いな」 降られる雪を眺めながら段々と冷え込んでくる身体に田畑が苦笑を浮かべる その田畑の頬も寒さに赤くなっていて 冷たさは誰にでも平等、誰一人として例外はない ソレがファファには何故か嬉しかった 「正博君と一緒です」 「何がだ?」 問うてくる田畑の頬へファファが手を伸ばす 触れてくる小さなそれに田畑が優しげな笑みを浮かべファファの身を更に抱く 互いの間にある、ないに等しい距離が更に縮まった 「正博君もファファも真っ赤でお揃いです。だからファファ嬉しいです」 同じ瞬間に感じる事の出来る寒さ だがそれ以上にそこにある雰囲気の温もり どちらも心地がいい 「帰って風呂でも入って温もるか」 窺うかの田畑からの提案 冷え切ってしまった身体を温めるには打って付けで ファファは満面の笑みを田畑へと向けながら 「正博君と一緒なら入るです」 無邪気に言って見せる そんなファファに敵う筈もなく 銜えて最初から断るつもりもなかった田畑は、そんな自身に僅かながら苦笑を浮かべながら承諾したのだった…… 前へ |次へ |
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