《MUMEI》
ワンパターン
「貧血。」

乙矢が一言、病状を教えてくれた。
母さんが迎えに来てくれて、点滴を打って帰ることになっていた。


「七生は瞳子さんの家に残して来た。」

俺の心を読んでいるのか、それだけ伝えると乙矢は先に帰った。
ちょっと薄情なとこが乙矢らしい。


七生に会わせたことに責任を感じているようだったので

「御飯美味しかったね」

と言ったら、


「吐き出したくせに。」

と、皮肉を返された。


病院を出ようとしたら偶然、安西と出くわす。安西は眼帯をしている弟の手を引いていた。

「こんにちは、あ、放送部で後輩の安西です。」

礼儀正しく安西は頭を下げる。弟も安西の真似をして頭を下げてほほえましい。


「安西は弟の付き添いだ?」


「はい、結膜炎の経過を診てもらいに。
先輩は?」

弟は眼帯を見られたくないのか、そっぽを向いた。


「この子、貧血で倒れたのよ。おばさんも安西君と同じ付き添いなの。」

母さん、余計なことを!
安西は平静を装いながら何か考えているようで眼球を何度もこちらに向け、それでも俺と目を合わせないようにあちこちに視線を移している。

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