《MUMEI》 言えなかったこと. 事故の詳細は、お姉ちゃんからすこし、聞いていた。 5年まえのある夜、近所の交差点で、わたしが横断歩道を歩いていたときに、車と接触したらしい。 その日は、梅雨もあけたというのに、朝からしとしと雨が降っていて、路面が滑りやすくなっていた。 不幸にも、わたしは、スピードの出しすぎで角を曲がりきれず、スリップした車にひかれた、というのだ。 「あんたは、《ジュン》君を捜していたの。あたしは、くわしいことは知らないけれど、おおかたケンカでもしたんでしょう。あんたと《ジュン》君は、昔からケンカ友達みたいだったから」 お姉ちゃんの話を聞きながら、わたしは瞬いた。 −−−《ジュン》 夢の中で、柊もその名前を口にしていた。 「《ジュン》って、だれ?」 わたしが尋ねると、お姉ちゃんは眉をひそめた。 「知ってるでしょう?《ジュン》君よ」 「わからないから聞いてるんだよ」 そう答えると、お姉ちゃんは信じられない、という顔をした。そして、ため息をつき、話しはじめる。 「あんたの5歳下の、男の子。小さい頃、あんたとあたしと、柊君と《ジュン》君の4人でよく遊んだじゃない」 わたしは瞬いた。 一緒に、遊んだ…? わたしが黙っていると、お姉ちゃんは困ったように眉をゆがめて、信じられない言葉をつづけた。 「《榊原 潤》君。柊君の弟よ」 ◆◆◆◆◆◆ 暗闇が、わたしに押しよせる。 ひいては返し、まるで波のようにわたしを絡めとっていく。 . 前へ |次へ |
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