《MUMEI》

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《榊原 潤》



幼なじみでボーイフレンドの柊の、5つ下の弟。

潤は活発で、スポーツ全般が得意で、中学のとき、バスケの全国大会でMVPをとるほどの、すぐれた運動神経の持ち主だった。


彼は柊にとてもよく似ていたけれど、柊とは違い、わたしにとても意地悪だった。

小さい頃、よくわたしをからかっては、ケンカを繰り返していたが、大きくなるにつれ、潤はだんだん、わたしに距離を置くようになった。潤が高校生になってからは、疎遠になっていた。





わたしが、お姉ちゃんから教えてもらったのは、ここまで。





そこまで聞いても、わたしは潤のことをおもい出せなかった。
潤をおもい出そうとすると、頭の中に霧がかかったみたいにぼんやりとしてしまうのだ。


それをお姉ちゃんに伝えると、彼女はむずかしい顔をして、言った。


「無理におもい出さなくていいよ。きっと、そのうちわかると思うから」


それきりお姉ちゃんは、潤の話をしなくなった。あえて、潤の話をさけているような感じさえした。


わたしの中に、《ジュン》という名の未消化の思いが、とりのこされた。





ある日。

柊が、いつものように、わたしのようすを見にやってきた。他愛のないおしゃべりをしながら、柊のやさしい笑顔を見ているうちに、わたしは無性に《ジュン》のことを、尋ねたくなった。

わたしは、ゆっくりと半身をおこして、柊の目を見つめ、聞いた。


「潤は、元気…?」


柊はびっくりして、しばらく黙ってしまった。すこし視線を泳がせたあと、低い声でおもい出したの…?と尋ねてきた。

わたしは首を振る。

「お姉ちゃんが、言ってたの。柊には、潤っていう弟がいて、5年まえ、潤を捜している途中で、わたしが事故に遭ったって」

そう答えると、柊はホッとしたような、さみしそうな顔をした。

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