《MUMEI》 過ちは一度きりだ。 其れはどちらとも無くやってきて、私達の唇を引き寄せた。 数日後、艶子と先生は駆け落ちした。 私は二つの愛を同時に見失う。 手紙が届いた。 其れが唯一の二人の生きている証だ。 内容は、柘榴の中から羽が生えて自分達の頭上を飛び回るから飼い馴らしてみただの、壁の向こうに襖が現れて二人で手を繋いで花畑を走り回っただの、空想話が書かれていた。 幸福ならばいいのだろうと、艶子の親には見せないようにした。 そんな日々が流れ私が星冠社に就職が決まった夜、 亡霊を見た。 「先生……?」 窶れて危うい立ち位置で、路地を徘徊していた。 先生は柘榴を抱いていた。 前へ |次へ |
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