《MUMEI》 「なまえ…」 気怠そうに声を絞り出し、俺の胸に頬を寄せながら上目遣で俺を見つめてくる。 「つけて…」 ブラウンの明るい瞳が少し輝いているのが見えた、泣いてんのか。 「ないの…」 「「……はぁ?」」 その場にいた全員がほぼ同時に声を発した。 「名前無いって何なんだよ〜」 「言いたくないのかな…」 「変な名前なの?」 いろいろと他のチビにちょっかいを出されると、またコイツは泣きそうな顔になって俺にギュッとしがみついてきた。 施設の連中にその話をしたら、俺だけにこのチビの事を話しはじめた。 コイツは婚外子で出産届なんて出されていなかったらしく、今まで戸籍が無い状態だった。 コイツが見つかった所でもマトモに育った形跡も無く、どうやって育っていたのか不思議なくらいだったらしい。 「だっこ…」 「お前さっきからあんま言葉話さねぇのな…」 さっきから2言3言しか言わない、そうだろうな…学校にも行ったことも無いんだろう。 「お前が名前付けてやれ」 「はぁ?」 コイツの名前を、俺が? 「いいのかよ俺が…」 「いいんだよ申請出さなきゃならないし、女の子だから太郎一郎次郎ってワケにはいかないだろ」 「男でもその名前は無いぜ…」 俺に抱きついてこっちの顔を見つめてくる、その瞳が純粋過ぎて恐いぐらいだった…。 「…雛子」 「ひな…こ?」 「まだ鳥の”ヒナ”みてぇなもんだから、雛子…」 前髪も短くてツンツンしてて、見た目も雛っぽく見える。 「変か?」 「ひな、なのね…ひな…だよお兄ちゃん」 それにこうやって俺にいっつもひっついて来る様子とか、まだ自分一人では何も出来ないカンジとか、そんな事を色々と考えてたら思い浮かんだだけなんだが、自分にしては良い名前を付けたな、と思った。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |