《MUMEI》

「ほれ!」

バシッ!

「もう何なん…、ぁあ!俺の郵貯!」

通帳で頭ひっぱたかれた事は気にしない様にして俺はオカンからそれを奪い取った。

ガキの頃貯めた郵貯。確か何万かあった筈。

「−−−ああ…」

「いつまでたっても帰って来んあんたが悪いんやで、おねいちゃんが帰って来た時に皆で温泉行かしてもろたわ」

「………」


「ま〜?親孝行出来て良かったな、アハハハハハ!」

高笑いと共にバタンと扉が閉まる…。



残高581円……。












キャンディは洗ってラップに包んだ。
風船は紙袋に入れた。


姉貴が置きっぱなしにしていたゲームソフト売ったら何とか電車代が出来て俺は電車に乗れた。


やっぱり毎月仕送りしてもらってる事を考えると金くれって言えなかった訳で。

オカンが渡してくれたもう一つの紙袋を何気なく覗く。


「……オカン…」



大阪いた時これしか使わなかったオタフクソースが入ってる。


つかこんなん全国何処でだって買えるのに、しかも長野でぜってー買っただろうに…。

他に鰹節、洗濯挟みで止めてある食いかけのポテトチップ。


「う〜ん」



カッコ悪いきっとオトンに買っといたやつであろうトランクス、オッチャンぽい靴下…。



隣の紙袋には風船…。






痛い荷物持参であずさに揺られ、新宿駅に着いた頃にはすっかり空は真っ暗になっていた。







ガチャリ


「ただいま…」


聖ちゃんの部屋の扉を開けると


「遅かったな!」


と言ったのはなんと日高。



「……何故…」



バサリと俺の手元から紙袋が落ちる。






もう今日はいっぱい謝って謝り倒してクリスマスエッチ仕切り直す事で頭がいっぱいだっただけに…


だけに…


「今佐伯と誠、ケンタ行ってる」


「あ〜そう…ですか…」


渋々部屋に入り、ドカッとベッドに寝そべると日高はクスクス笑いだした。


「あんだよ」

「長沢ばかだな〜!聞いたで佐伯に!
あいつに1番しちゃいけねーことよりにもよってクリスマスにするたーな」

「……」

「誠が言ってたけど佐伯って小学生まではクラスん中でデカイ方だったんだってさ、それが今ただでさえ伸び悩んでるっつーのにまったく長沢はやってくれるなあ」

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