《MUMEI》
皐月 中旬
しと、しと、雨が降り止まない。
不安なとき先生は、ぼくの手を取ってくれた。


ぼくは時々、女性の呻き声を土の底から聞いた。


彼女は先生を愛していらっしゃる。
土の下から詩が聞こえて、土の被さる音がして、そうやって埋めたのだと、繰り返し囁かれる。


「先生……ぼく、聞こえてしまったんです。」


「嗚呼、艶子の声?」

先生はお酒を呑んでいた。




違う、と謂えない。
先生は虚ろな眼差しでぼくに微笑む。

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