《MUMEI》 お仕事終了「お帰りなさい。私の可愛いcat`s」 家の戸を開けるなりだった 見知らぬ人物が何故か家の中に居た 突然の事に言葉を失っている田畑の傍ら、だがファファは驚いた様な顔をしてみせる 「Big Cat!どうして此処に居るですか!?」 どうやら一番のお偉い方らしく 思わず叫んでしまったファファに Big Catは穏やかに笑みを浮かべる 「よく、頑張りましたね。おめでとう」 Big Catの手がファファへと伸び頬へと触れた だが言われている事がいまいち理解出来ないでいるらしいファファは不思議気に小首をかしげて見せる 「あなたは、幸せの妖精として立派にご主人様に幸せを運ぶ事が出来た。本当によく頑張りましたね」 「幸せを、ファファが……?」 「そうですよ。幸せの妖精としての責務をあなたは果たしたのです」 「でもBig Cat、ファファは、ファファは!」 何一つ田畑に幸せを運べてなどいない、と表情で訴えていた Big Catは柔らかな微笑を浮かべると首を横へ振りながら 「あなたはちゃんと役目を果たした。今、私があなたの目の前にいる。それが証拠です」 「じゃ、じゃあファファ……」 「そうです。あなたは帰らなければなりません」 告げられたことにファファの表情が引き攣る 「でもBig Cat、ファファは……!」 かぶりを振るばかりのファファに、やはりBig Catは首を振って見せる 「聞きわけて下さい、Cat`s。これが、決まりなのですから」 尻ごみするファファに、Big Catは困り果てた様な顔で だが傍らの田畑へと向いて直ると深々と頭を下げてくる 「この子は、いいご主人様に出会えたようですね。安心しました」 穏やかな微笑を向けてくる相手とは裏腹に、田畑の心中は穏やかではなかった 「こいつを、連れてくのか?」 ファファが居なくなる それだけの事でみっともなく動揺してしまい、つい声色も低いソレになる 返ってきた答えはYes 瞬間に、その場の空気が重く感じられた このときになって、田畑は漸く理解した 今まで自分が何を幸せと感じてきたのかを それまでは薄く、不確かなものでしかなかったソレに、今になって気付く 「あなたが今何を幸せとしているのかは解っています。ですがこれは決まり。どんな理由であれ例外は認められません」 言って終りに、Big catがファファへと向いて直る 「明日、また迎えに来ます。お世話になったご主人様にきちんとお礼を言うんですよ。では、また明日……」 音もなくその姿は消えて 静まりかえった室内、そこにある重い沈黙 その内に、ファファの嗚咽が聞こえ始める 「ファファ、頼むからそんなに泣いてくれるな」 「……正博君。でも、でもファファ、正博君に全然何も出来てな……」 言葉も途中に、田畑の腕がファファを抱く 何も出来ていない そう思い込ませてしまっているのは何も告げる事をしなかった自分 一言その言葉を言ってしまえば、瞬間にこの柔らかく幸福な時を失ってしまう気がして 自己満足だけでファファを悲しませてしまった事に胸を痛める 「ごめんな、ファファ。」 ファファと共に在る時間が、この上ない程に幸せなソレだと すぐにでも言ってやればこんな思いをさせる事はなかったと、 田畑の胸中には後悔ばかりが残る ファファは首を横に振りながら 「なんで正博君が謝るですか?謝らないといけないのはファファの方です……」 「いや、謝るのは俺の方だ。お前は、何も詫びる事無い」 「でも……」 「明日、か。随分と急だな」 呟くように言った田畑の声に、ファファも小さく頷く 突然に告げられた、急過ぎる結末 納得など出来るわけもなく、だが何が出来る訳でもなくただ明日を迎えるしか出来ない ソレが腹立たしかった 「本当、ごめんな。ファファ……」 唯謝るばかりの田畑 腕にファファを抱いたまま、暫くその身体を離す事が出来なかったのだった…… 前へ |次へ |
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