《MUMEI》

少年はわたしたちを見て、きもち悪いものでも目にしたように、露骨に顔をしかめた。

「いちゃつくなよ、こんなところで」

ぶっきらぼうな言い方だった。わたしは、柊の声に似てきたな、とぼんやりおもった。
柊はわたしからからだを離して、ため息をつく。

「ほかにどこで、いちゃつくんだよ」

臆面なく言い放った柊に、こんどはわたしが顔をしかめる。
少年はあきれたような顔をして、わたしの顔を見た。しばらくじっと見つめてから、馬鹿にしたように鼻をならす。

「栞、ちょっと太ったんじゃない?顔、まるいよ」

突然の暴言に、わたしはカチンときて、なんだって!と声をあげたが、あっさり無視された。少年は柊の方を見て、呟いた。

「いくつだった?」

なんの話だろうと、わたしが眉をひそめていると、柊は、すこし考えてから答えた。

「8…いや、9だ」

すると、少年は勝ち誇ったような顔をして、勝った!と言った。

「俺、11」

「そりゃすごい」

柊が軽くそう言うと、少年はなにも言わず、部屋から出て、ドアをしめた。

わたしが柊の顔を見ると、彼は肩をすくめて見せた。

「今日もらったチョコの数。あいつ、俺に張り合ってるの」

その返事を聞いて、わたしはふぅん…とうなった。つまり、あの少年がもらったチョコの数は、11コ。

「そりゃ、すごいね」

「だろ?」

一瞬の沈黙のあと、わたしたちは、笑った。





−−−風景が、変わる。





どんよりとした灰色の空の下ではなく、わたしは、すっきりと晴れた青空の下にいた。

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