《MUMEI》 見わたすかぎり、白詰草が生い茂る、原っぱ。 ここは、近所の公園。 小さい頃、よくここでみんなで遊んだ。 初夏の心地よい風に吹かれながら、わたしは草の上に腰をおろしている。 目の前には、柊によく似た、男の子が、ひとり。草むらに寝そべっていた。セルフレームの、あの眼鏡は、かけていなかった。 ふたりの間に、とくに会話はなかった。 わたしは、もくもくと白詰草をつんでいた。彼は、横になったまま空を見あげていた。 しばらくして、わたしは、ぽつんと言った。 「MVPって、そんなにすごいの?」 わたしの問い掛けに、彼は、当たり前だ、と答えた。 「兄さんだって、とれなかったんだぞ」 彼の返事に、わたしは興味なさそうに、ふぅん、とだけ、うなる。 再び、沈黙がおとずれた。 すこしして、こんどは彼が業を煮やしたように、なんとか言えよ、と言った。 わたしは、白詰草をいじっていた手をとめ、彼を見た。彼も、いつの間にかからだをおこして、わたしの顔を見つめていた。 わたしはほほ笑み、そして、言った。 「おめでとう」 その言葉とともに。 不機嫌そうな彼の頭に、白詰草の花冠を、ふわりとのせた。 −−ああ、これは。 わたしは確信する。 間違いない。 これは、《ジュン》との、おもい出…。 ◆◆◆◆◆◆ 治療を終えて、わたしは車椅子をお母さんに押してもらい、病院から出た。わたしはぼんやりと天を仰ぐ。 空は青くて、とてもまぶしかった。 なんとなく、『あの日の空』に似ている、とおもった。 公園の原っぱで、潤とむかいあっていた、『あの日の空』に。 わたしは、後ろにいるお母さんに、ねぇ、と呼びかけた。 「寄り道、しない?」 . 前へ |次へ |
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