《MUMEI》

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−−あのとき、ふたりが血まみれになって倒れているのを、ただ、見ていた…。俺が、はやく、救急車を呼んでいれば、もしかしたら、あいつはしなずにすんだかもしれないのに…そう、しなかった。


−−なぜ…?


−−こわかったんだ。こわくて、動けなかった。


−−…こわかった?


−−…うん、とても。でも、こわかったのは、事故の惨状を目撃したからじゃない…俺自身に怯えたんだよ。


−−どういう意味?


−−あの事故が起きる直前、ふたりに、しんでほしいとおもったんだ…。




柊に会って、潤のことをすこし、おもい出したと、直接むかいあって、伝えたかった。そうすることで、柊の心に渦巻く痛みをわかちあえたら、とおもった。



店員は眉をひそめて、シュウ…?と繰り返し、わたしの顔を見る。そんな名前は聞いたことがない、と言わんばかりの表情だった。

もしかしたら、このひとは柊の苗字しか、知らないのかもしれない…。

そうおもいついたわたしは、あわてて言葉をつけ足した。

「えっと、榊原…榊原 柊です。こちらでバイトしてるって聞いたんですけど」

そこまで言うと、その店員は、ああ!と、ひらめいたように声をあげ、それから、今日は休みですよ、と淡々と答えた。

「休み、ですか」

「体調が悪いって、今朝、連絡があったんです」

体調が、悪い。

すこしだけ、不安になる。

わたしとお母さんは、店員にお礼を言って、コンビニから立ち去った。わたしは柊の家に行きたいと言ったのだが、お母さんは反対した。

「仕事を休むほど、具合が悪いんだから、今日はよしなさい」

たしなめられて、わたしは黙った。確かに、この車椅子でわたしが柊の家へ訪ねたら、柊がわたしのからだを抱きかかえて家の中に入れなければならない。

わたしはお母さんの言葉に頷き、自分の家に帰った。




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