《MUMEI》

五月雨の降る昼間は先生の夜だった。
ぼくはぽっかりと胸が空白になるので一人、縁側に出てみる。
縁側から先生の眠る部屋は近い。
しと、しと、視界を遮る滴と先生の寝息を聞きながらぼくは落ち着く。
そんな浅ましいぼくは、先生の寝息に合わせて指が弾ける。
地面に弾む雨が賎しい指を切断してくれるようにと願いながらも、穢れた感覚は素直に応じた。


着崩れた、寝間着を正す虚しさ、先生へ向かうぼくの浅ましさ。
背後には、女性。

ぼくは死に神だ。
ぼくが先生を想うと彼女は大きくなってゆくから。


背中はしと、しと、滴が滲みてゆく。
先生の想いも雨も背中に降らして沈めよう。

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