《MUMEI》
文月
「祭が始まるんだ。」

先生は瞳を輝かせている。


「……祭?」

ぼくは祭の意味がいまいち、理解できなかったが先生が話してくれた情緒溢れる『祭』に胸が高鳴った。


「君に浴衣を着せよう。洋装ばかりだからね。峯君に頼んで買わせよう。私が見立てるのだからきっと素晴らしいよ。」

ぼくは死に神なのに、先生はぼくを引き連れて歩きたがる。

御蔭でぼくは此処の人達に『シニカミ』と謂う風変わりな名前だと認識されて居た。

祭は三日間で、神社に奉られている水上[ミナカミ]様を川に泳がせる日らしい。

水神[すいじん]が転じてミナカミになり、水上と呼ぶようになったのだろうと先生は推測していた。
七夕や盂蘭盆、と此の月は祖先が帰るとされていて、水上祭も水流に乗って水上様が祖先を運んでくれるのだそうだ。

三日間祭を行い、最終日に供物と共に人の形を模した和紙を宮司さんから戴いて川に流す。


「七夕祭はしないのですね。」


「家でひっそりやるのだよ、文字を覚えたのなら書くと良い。ほら、短冊。枝が無いから百合に引っ掛けておくことにしよう。」

書きかけの原稿を細長く折って下さった、いい加減、仕事は飽きたようだ。

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