《MUMEI》
水着
7月の海。
千夏は、眩しいばかりのオレンジの水着で、ビーチに姿を現した。明るい茶髪がよく似合う。肩までの髪はお洒落でボリュームがあり、まだあどけなさが残る童顔とマッチしていた。
短大で知り合った美沙子と純もセクシーな水着姿。男たちの視線を浴び、3人は少し緊張した。
「泳ぐ?」
千夏が太陽光線を避けるように、手をかざして言った。美沙子は千夏のビキニを触りながら言う。
「千夏、いい体してるね」
「そりゃあ努力してるもん」
「どんな?」純が聞く。
「ちゃんとトレーニングしてるよ。夜9時以降は食べないし」
皆二十歳の大学生。人生の四季でいえば初夏の年頃。冒険気分を味わいたいという願望も旺盛だったが、千夏がいちばんガードが固い。
海は人で一杯だった。カップルや家族連れ。千夏たちのような若い女性だけのグループ。もちろん男だけのグループも少なくない。
早速とばかり、3人の男たちが声をかけてきた。
「君たち3人?」
「ハイ」純が答えた。
「俺たちと遊ばね?」
「パス」
そう言うと千夏は、背を向けてさっさと歩いていった。
「ちょっ…」
純と美沙子は慌てて追いかけると、千夏の腕を掴んだ。
「千夏、いきなりパスは失礼でしょう」
「純。いきなりナンパするよりは失礼じゃないよ」
「でも悪くないじゃん」
「美沙子も安上がりだね」
「あ、千夏、そういう暴言は許さないよ」
「どうしたの?」男たちが聞く。
「ちょっと待ってください」
純は笑顔で手を振ると、千夏に言った。
「結構イケメンじゃん、行こうよ」
「どこが?」
「金髪の人カッコイイじゃん」
「嘘、美沙子もそう思う?」
「純も金髪の人、ヤバい、バトル?」
千夏は腕組みしながら真顔で金髪の男を見た。
「ああいうのがいいんだ?」
「カッコイイじゃん」
「あんたらのカッコイイの基準がわからん」
それでも美沙子は、千夏の腕を叩きながら笑顔で誘う。
「千夏の理想の高さはわかったからさあ、付き合ってよ」
「年行ってない?」
「バカね千夏。若い男なんか自分のことばかり考えてるからダメよ。年上の男性は全身くまなく愛してくれるから」
純の過激な発言に、美沙子が慌てた。
「冗談冗談。食事するだけだよ」
「なわけないでしょ」千夏の声が高くなる。
「まだあ?」
「うっせーな」
「やめなよ千夏!」純が怒る。
「いいよ、二人で行ってきな」
「別行動なんてあり得ないよ」美沙子の顔が曇る。
「じゃあいいわよ。あたし一人で行ってくるから」
「ダメよ純。3対1なんて危険だよ」
「左右から下から3人がかりで攻められたら、いくらのあたしでも落ちちゃうかも」
「欲求不満かよ」
「何か言った千夏?」
「独り言」
すると、痺れを切らせた男たちが歩いてきた。
「行こうよ。食事ご馳走するよ」
「ホントですか?」
「あたしはパス」
「君も行こうよ」
金髪が千夏に声をかける。千夏は睨んだ。
「泳ぎに来たんで、すいませんけど」
「じゃあ泳ごうよ」
「彼氏厳しいんで」
「彼氏?」
男たちはゲラゲラ笑った。
「食事とかするだけだよ」
「そんな窮屈な男やめちゃいな」
「はあ?」千夏の声が裏返る。
「やめなよ千夏」純が止めた。
「何であんなこと言われなきゃなんないわけ?」
「ちょっと待って」
純は手を引いて、少し離れた場所へ千夏を連れて行く。
「何よ彼氏なんかいないくせに」
「うるさい」
「千夏は、自分が気に入らないからって、あたしたちの分までぶち壊すことはないでしょ」
「嘘、君たちマジで出会いだと思ってるの?」
「わかんないじゃんそんなの」
金髪がまた千夏に声をかける。
「行こうよ」
純が金髪を睨む。
「この子が目的でナンパしたんですか?」
「まさか、違うよ」図星を突かれてたじろいだ。
「千夏が行かないならあたしも行かないよ」
「じゃあ、あたしが独り占め?」
話がまとまらない。

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