《MUMEI》

「どうせすぐ汚れるんだ。どれだって一緒だろ」
「おまえな、おしゃれ心を忘れたら若者失格だぞ」
「おしゃれなんか気にしてる場合かよ」
ユウゴはため息をつきながらケンイチの決断を待つ。
さんざん迷ったケンイチは最後には織田にまで急かされ、渋々ながらなんとか決めたようだった。
その服装はケンイチらしく少し奇抜で、とても自分は着こなすことはできないだろうとユウゴは思った。

織田がすべての会計を済ませ、三人は店の外に向かう。
ユウゴはドアへと向かいながら、さりげなく店員を振り返ってみた。
彼はボーッとした表情でこちらを見ている。
三人がドアから出ようとすると「ありがとうございました」とだるそうな声が聞こえた。

「あの店員、大丈夫か?もしバレてたら……」
人の姿もまばらな裏通りを歩きながらユウゴは言った。
するとケンイチが笑いながら手をひらひらと振る。
「大丈夫、大丈夫。絶対人の顔なんか見てないから」
「まあ、そんな感じだったけど」
「おまえは心配性なんだって。もっと余裕を持てよ」
それを聞いてユウゴは「無茶なことを」と小さく呟いた。
あのプロジェクトに参加した日から余裕など持ったことがない。
常に張り詰めた意識を保ちながら、慎重に動いてきたからこそ今まで生き延びてこれたのだ。
いまさら余裕など持てるわけもない。

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