《MUMEI》

 草野がいた場所を中心に、ほとんど何もない。
小さな瓦礫や埃が積もっていても大きな瓦礫は一つもない。
おそらく爆発で砕け散ってしまったのだろう。

 しかし、あの一本でここまできれいに何もなくなるとは思えない。
草野はまだお手製の爆発物を持っていたに違いない。

「うわ〜、何もないね」
遅れて地上にはい出て来たユキナが、周りを見回しながら呟いた。
「あいつ、もしかして俺のせいであんな風に、狂っちまったのかな」
ユウゴが言うと、ユキナがバンっと背中を叩いた。
振動が腕の傷に響く。
「いってーな!おまえ!」
「らしくないこと言ってないで、早く移動しよう。その怪我の手当もしないと」
言われてユウゴは自分の左腕を見た。

見事に血まみれだ。
お気に入りのジャケットもついに再起不能となっていた。
「薬局とか探すか?」
「病院のほうがよくない?」
「どっちでもいい。今、気付いたけど、すげえ痛い」
「あんた、鈍いんだね」
「うるせえよ。そういうお前はどうなんだよ?腹の具合は」
ユウゴが聞くと、なぜかユキナは顔をしかめた。
「やめてよ。なんか、あたしがお腹くだしてるみたいじゃない」
「平気そうだな」
ユウゴが頷くと、軽くユキナは睨んできた。

「じゃ、行くか」
その視線を軽く流して、ユウゴは歩き出した。

すでに辺りは薄暗く、そろそろ寝床も探さなくてはならない。

今日はどこに泊まろうか。

ユウゴは一度、草野がいたはずの場所を振り向いた。
そこだけ、微かに地面の色が違う。

その色が、憐れな草野がこの世に遺した最後の姿だった。

ユウゴはその姿を目に焼き付けた。

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