《MUMEI》

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雨が降る闇の中、傘もささずに、わたしは必死に走っていた。
どこかにいるはずの、潤をさがして。

あてずっぽうに走っていくと、近所の交差点にたどり着き、わたしは足をとめた。

広い道路をはさんだむこう側に、よく見知った少年の姿があった。

彼は、わたしに気づいて、するどい眼差しで睨みつけていた。

その目を見て、わたしは胸が張り裂けそうになり、たまらなくなった。


わたしは、かけ出す。

少年が−−潤がいる、むこう側へ。


もうすこし。

もうすこしで、潤のところへ行ける…。


わたしは、なにかを求めるように、手をのばした。わたしの指先が、潤のからだに触れる…。



その寸前だった。



甲高い、ブレーキの音が聞こえ、わたしの足がすくむ。ヘッドライトのするどい光が、がわたしの目を突きさし、くらませた。

そして。

タイヤがスリップする音の中、聞こえた、言葉………。




−−死んじゃえ…。











わたしは目を覚ました。全身に汗をかいていた。

からだをおこして、わたしは部屋の中を見回す。いつもと変わらない、わたしの部屋。わたし以外、だれもいない。


また、事故の夢を見た。


わたしは頭を抱える。
このままじゃ、抜け出せない、きがした。

5年まえのあの日から、わたしはまだ、あの交差点で、足がすくんだまま、立ち尽くしているのだ−−。






次の日、わたしはひとりで公園に出かけた。車椅子を必死に動かすと、額から汗が流れた。いつも、だれかに押してもらっていたから、こんなに大変だとおもわなかった。

やっとのことで公園の、白詰草が咲く、あの原っぱにたどり着いた頃には、わたしはすでに汗だくになっていた。


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