《MUMEI》
混濁するキオク
わたしは車椅子に腰かけたまま、深呼吸をする。


やわらかな、草の香りがした。


わたしは白詰草をながめながら、不意に昔のことをおもい出した。







まだ、わたしは高校生だった。

下校途中、わたしと柊が一緒にこの公園に立ちよったときのこと。

今日みたいに、野原一面に白詰草が咲いているのをふたりでぼんやりながめていた。


わたしがおもむろに、白詰草をひとつ、つみとると、柊は、眉をひそめた。

「無意味に、つむなよ」

わたしは、びっくりした。柊はつづけた。

「どんなに小さなものでも、俺たちとおなじように、一生懸命生きてるんだ」

聖人君子のような台詞に、わたしはすこし戸惑ったが、そうだよね、と素直に反省した。

「トンボだってオケラだって白詰草だって、、みんな生きてて、友達なんだもんね…」

しみじみ言うと、柊はあきれた顔をして、おまえな…とぼやいた。

「ぜんぜん反省してないだろ?」

「してます。ゴメンナサイ」

わたしは早口に言った。すこし、恥ずかしかった。柊は白詰草をながめて、呟いた。

「切り花も、きれいだとおもうけど、俺は、この、自然なままの姿の花が、一番きれいだとおもうんだ。だから、こうやって花をながめているのが、一番すきだな」

わたしはおだやかな柊の横顔を見つめて、まえに、潤のために白詰草をつみとって、花冠を作ったことは、絶対に秘密にしておこう、とおもった。

それからわたしたちは、他愛のない会話をして、幸せなひとときを過ごしていた…。


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