《MUMEI》

「放送部の前に出したコンクールの映像欲しがってたろう、ROMに落としておいたから。」

副顧問にこうして呼ばれたのは初めてかもしれない。
顧問の先生はパソコン苦手でいつも映像編集は俺達に丸投げしていたからな……。


「ありがとうございます。」

放送室に入るのは久々で、落ち着く。


「いいよ、受験でこれから忙しくなるんだから。そうだ、餞別にシューベルトやるか?」

CDの中でも俺が気に入ってよく流していたやつだ。副顧問は意外と話してみると愛想よかった、名前は槙島だったと思う。


「あ、欲しいです。」


「……って!」

先生は棚から落ちてきた箱に頭をぶつけていた。


「大丈夫ですか?」

踞っている、痛そうだ。
先生の手が赤いので、わず確かめてしまった。
どうやら、ペンキだったようで安心した。


「……頭に付いてる?」


「前髪に付いてますよ。
床は俺が片付けますから先生は髪を洗った方がいいです。」

先生の前髪に付いたペンキをティッシュで拭う。


「うわ、悪いな……」

先生はどうやらおっちょこちょいらしい。
扉に躓いた。


「先生、子供みたい。」


「言うな!」

気にしていたのか。

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