《MUMEI》 わたしたちは廊下を進み、リビングに入る。 リビングの中は、日の光が差しこんでいて、明るく、そして温かかった。 柊は、コーヒー入れてくるよ、と一言断り、わたしをリビングに残して立ち去った。 わたしは柊の背中を見送り、そして、部屋をながめた。 柊の家で、どうしても確認したいことが、あった。 リビングの奥にあるふすまが、すこしあいているのに気づいた。ふすまのその奥は、どうやら小さな部屋につながっているようだ。 わたしは静かに車椅子をこぎ、そのふすまへ近よった。 ゆっくりと、音を立てないように、ふすまをひらく。 ふんわりと漂ってきたのは、線香の香りだった。 わたしは、ひょいっと中を覗きこむ。 その、部屋は−−−。 ◆◆◆◆◆◆ 一面、暗闇だった。 雨が降ってきて、わたしのからだをあっという間に、濡らしていった。 わたしは潤を捜して、走っていた。 潤は、わたしに怒りをぶつけた。 燃えるようなするどい目つきで、わたしを睨みつけた。 −−なんで栞は、いつもそうなんだよ!! 胸が張りさけそうだった。 わたしの鈍感さが、潤をとても傷つけた。彼は怒りのあまり、家を飛び出していった。 わたしと柊は、手分けして潤を捜した。 はやく見つけなければ。 そのおもいだけが、あのときのわたしを支配していた。 そして、あの、運命の交差点。 道路を挟んだむこう側に、潤を見つけたわたしは、足をとめる。 彼も、こちらを振り返った。一瞬、驚き、それから、またわたしを睨みすえる わたしは、潤にむかって駆け出した。 . 前へ |次へ |
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