《MUMEI》
断片的な記録
電柱を辿りながら
樹は徐々に記憶が鮮明になってゆく。
ここはどこだろう
見覚えのある塀や屋根で学校の付近に居たことを思い出した。
そうだ。
急いで後退、叢へ走る。
自分の自転車だ、確かこの中にいるはずだ。
「――――若菜!」
倒れていた若菜を抱き起こした。
何処も怪我はないし着衣の乱れもない。
小さく安堵による溜息をつく。
周りには誰もいない。
夢の中にいた気がした。
体の痛みと若菜がここにいる事実さえなければ、悪い夢で済んだだろう。
「樹………」
若菜が首をうなだれながら地面に手をついた。
「うん、」
彼女の声を聞いて苦しくなった。どうしようもなく不甲斐ない自分が情けない。「ごめ……」
最後まで言う前に唇に指をあてて遮られる。
「言わないで、
こんなになちゃって……あーあ。
何も無かったよ、
私よりも樹が……痣にならないといいな。
感動しちゃった。
樹が助けに来てくれて、私の肩を抱いてくれた。その事実が嬉しい。」
若菜は何か考えていれのか苦しそうに固く瞼を閉じた。
樹は若菜の肩をもう一度固く抱いた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫