《MUMEI》

 「やっぱ、もう居ねぇか……」
仕事から帰宅した田畑
その目の前に広がるのは誰もいないからの部屋
ただ、ファファが居た名残だけが虚しくそこにあるだけで
もしかしたら居るかもしれない
その願いはやはり叶わなかった
「……馬鹿だろ、俺」
荷を床へと放りだし、三和土へ座り込む
薄薄とだが、気付き始めていた自分の(幸せ)
無くすまいと必死になった結果、それがこれ
「何が幸せの妖精だ。ひとの(幸せ)奪っといてよく言うよ……」
情けない事に、涙が出た
何年か振りにみる自分の涙に田畑自身驚いてしまう
狭い部屋に一人蹲っている今の自分が、堪らなく惨めだった
視界の隅に見える洗濯物の山
その中にファファの服を見つけ、何故か畳んで直す事をしてしまう
「……未練がましい野郎だな。本当……」
そんな自分に、嫌気がさす
一人きりが、これほどまでに寂しいものなのだと、初めて気付いた
以前なら、一人の方が気が楽とさえ思っていたのに
一度誰かの存在を、その温もりを傍らに知ってしまえば、在るべきそれが無い虚無感を、その瞬間感じすぎていけない
無意味な、ないもの強請り
「……寝よ」
食事もを摂ることもせず、早い時間から床に入った田畑
だが、すぐに寝付く事など出来なかった……

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