《MUMEI》 そろそろ、リビングに戻ろう。柊が、戻ってきてしまう…。 そうおもって、仏壇から目を離そうとしたとき、 視界に、映った、ものが、あった。 仏壇に供えられている、果物の陰に、 黒い、プラスチックの、なにかが、あった。 不意に、胸騒ぎが、した。 わたしは、そばにより、それに手をのばす。寒くもないのに、なぜか手が、震えた。 陰にかくれた、その黒いものを、引っ張りだした……。 −−−黒い、セルフレームの眼鏡。 それは、なにかの大きな圧力によって、無惨にもひしゃげていた。 わたしは、その眼鏡に小さく書いてある、ブランドロゴを見て、固まった。 −−−− …… ま さ か 。 にじむ視界の中で、 するどい光が、飛び散ったような、気がした。 まるで、それは、 突如として、胸にわきおこったその『違和感』を、 浄化していくようだった…−−−−。 ◆◆◆◆◆◆ わたしは、自分の部屋の壁にはってあるカレンダーをながめているとき、突然、おもい出した。 −−来月は、柊の26回目の、誕生日だ。 わたしは、瞬いた。 あまり、実感がない。 最後にあったとき、柊はまだ、20歳だった。 それが、いきなり6歳も年をとってしまうなんて…。 信じられないきもちで、いっぱいだった。 わたしはペンスタンドに入っていた、赤いサインペンを抜き取ると、カレンダーの上の、柊の誕生日に赤マルをつけた。 そろそろ、準備をしないとだな…。 なにを、あげようか。 すこし悩んでから、わたしはあることを思いつき、簡単に身支度をした。 ひとりで悩むよりも、柊に直接、なにがほしいか聞いた方がはやいとおもったのだ。 家を出るとき、お母さんに、傘を持っていくように言われた。夕方から天気が崩れるそうだ。わたしは玄関の小窓から、空をながめた。どんよりと、灰色の雲が空をおおっていた。 それでも、わたしは傘を持たずに家を出た。たぶん、降り出すまえに、家に帰ってこれるだろうと、ふんだのだ。 前へ |次へ |
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